さかなきのこ

元きのこ研究者による、きのこ栽培の魅力発信ブログ

【家庭きのこ栽培】きのこ菌糸培養に使う野菜ジュース寒天培地を最適化しようとしてみた


野菜ジュースはお好きですか?濃い目のやつとかもあっておいしいですよね。
でも、きのこは濃いやつが好きとは限らないみたいですよ。
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どうも、元きのこ研究者のもれ郎です。


以前のブログで、野菜ジュースを使った寒天培地の作り方をご紹介してみました。


関連記事:【自作】きのこの菌糸培養に使うシャーレの代用品を考案した【1個30円未満】 - さかなきのこ


あの記事で言いたかったのは「エビオスとか面倒なもの使わなくても大丈夫ですよー」ということなので、一応目的は達成しています。しかし、その後ちょっと気になっていたことがありました。


それが、培地に使う野菜ジュースの濃さ(希釈倍率)です。


その記事では原液と1/2濃度の2つを作って、きちんと使えることを実証するためにシイタケを培養した結果を紹介しました。その結果、どうも1/2濃度のほうが菌糸生長が良い気がしたのです。


野菜野菜ジュースの濃さとシイタケ菌糸の生長


厳密には縮尺が違いますが、菌糸の生長はぱっと見変わりません。ただ、菌糸でできた円(菌叢:きんそう、と言います)の形を見ると、原液のほうがやや乱れた円形になっています。なんかストレスとかを受けているのかもしれません。


「野菜ジュース、実はもっと薄いほうが良いんじゃないだろうか……」、もれ郎は確かめてみたかったのですが、その後なんやかんやあって後回しになっていました。


もれ郎は皆さんに、市販のきのこを使って種菌を作ろうとしている方には原菌づくりから始めることをおすすめしています。それにも関わらず「これです!」というおすすめの培地を提示していないのは、ちょっと不親切かなと思いまして。


そこで本記事では、手近にあったエリンギの原菌を使って菌糸生長試験を行ってみたので、その結果をご紹介したいと思います。そして、決め打ち的に当ブログ「さかなきのこ」推奨培地レシピをご提案します。原菌を作りに必要な寒天培地の組成に悩まれている方は、ぜひ本記事をご参考にしてみてください。


あわせて、前回(シイタケ)とは異なるきのこ種(エリンギ)を試験に使うという雑さによって、もれ郎はちょっと困った問題に直面することになります。そこも合わせてお楽しみいただければと思います……。


関連記事:きのこ栽培用の寒天培地の作り方。菌糸を培養して種菌作りの準備をしよう! - さかなきのこ

方法:野菜ジュース寒天培地の調製


原液、1/2、1/5、1/10の濃度の野菜ジュースを調製します。薄める際には水道水を使いましたが、気になる人は蒸留水とか使えばいいと思います。


そして、各濃度に調製野菜ジュースの重量の2%の寒天粉末を入れます。今回野菜ジュースは25mL(≒25g)用意したので、入れる寒天の量は0.5gです。


電子レンジでチンして寒天をざっと溶かしてタネオくん1号に分注し、圧力鍋で滅菌します。


放冷後、別に培養していたエリンギ原菌を切り出し、寒天培地の中央に置いて準備完了です。


室温で7日ほど培養(放置)しました。


試験方法は以上です。それでは、さっそく結論を見ていきましょう。

結論1:野菜ジュースは薄いほうが良い


濃度の異なる野菜ジュースで培養したエリンギ菌糸


こちらの写真をご覧ください。なんと、野菜ジュース原液ではほとんど菌糸が伸びず、1/2~1/10濃度の野菜ジュースと比較して明らかに菌糸生長が不良となりました。


一方で、菌糸生長が良好1/2、1/5、1/10濃度についても菌糸の様子が若干異なっていました。1/5は菌叢の直径が小さいです。そして、1/10は菌叢が薄い気がします。ただ、僅差ですし、1サンプルずつしか試験していないですし、接種した原菌の状態も不均一だったので、これらは参考程度で考えておきます。


一方、原液で生長が不良なのは明らかです。まさかここまで伸びないとは。やっぱ多少面倒でも野菜ジュース寒天培地を作る際は薄めたほうがいいですね。原液はドロドロしていて寒天も溶かしにくいですし。


そんなことを思いながらブログの構想を練っていたとき、ふと、以前シイタケで試した野菜ジュース寒天培地での培養試験を思い出します。


「あれ、シイタケのときって原液ここまでひどかったかな……」


ブログにアップした写真を確かめてみて、もれ郎はもう1つの考えに思い至ります。

結論2:培地の最適濃度はきのこ種によって異なる可能性がある


濃度の異なる野菜ジュースで培養したシイタケ菌糸


こちらの写真をご覧ください。これは、シイタケを原液、1/2濃度の野菜ジュースで培養したときの写真です(コンタミしていて恥ずかしいので、もれ郎のアイコンで隠しています)。


原液のほうは、菌叢がきれいな円形ではなく、さらに片方は菌糸の生長が遅いです。しかし、やはりそこまで生長が悪いわけではありません。まあちょっと伸びてないかな、くらいです。


このシイタケの傾向は、今回のエリンギでみられた傾向とは異なります。


単純に解釈すると、「エリンギは濃い培地が苦手、シイタケは濃くても割と耐えられる」となるのでしょうね。


じゃあ、野菜ジュースの何の濃度が「濃い」のでしょうか。糖類の濃度(浸透圧)でしょうか、それともpHでしょうか、あるいは、高濃度だと菌糸生長に悪影響を及ぼす「何か」が含まれているのでしょうか。


……もれ郎はそこまで探求するつもりはありません。原菌が維持できれば十分ですからね。しかも、たぶんですが、きのこ種ごとに野菜ジュース寒天培地の最適濃度は微妙に異なるのでしょう。最適化などをしていると、いつまでたっても肝心のきのこ栽培ができません。ちょっと気になる部分ではありますが、ここはスパッと割り切って今後「さかなきのこ」で使う培地の決定版を決め打ちしてしまおうと思います。

もれ郎推奨の寒天培地:命名「かごめ」


「かごめ」組成
・野菜ジュース 20 mL
・水(水道水 or 蒸留水) 80 mL
・寒天粉末 1.5-2.0 g


野菜ジュースの濃さは1/5を採用しました。エリンギの1/10の菌叢の薄さが気になったためです(写真だとほとんどわからないんですけどね)。1/5の菌叢直径が小さかったことは、接種片の大きさや状態である程度説明できそうですが、菌叢が薄いのは単純に貧栄養が効いている気がしたからです。


ちなみに、命名からもお分かりの通り、野菜ジュースにはカゴメ野菜ジュース食塩無添加をお勧めします。


①もれ郎が知る限りほとんどのスーパーに置いてある
②約50年の歴史があるロングセラー商品なので消えたりマイナーチェンジが少なそう


以上2つの理由により安定的に使えそうだからです。


外部リンク:カゴメ株式会社|カゴメ野菜ジュース|ブランドヒストリー


他にも、カゴメには以前優しくしてもらったので、その恩返しの意味もあります。そう、あれはもれ郎がまだ大学生の頃。就職活動で履歴書を送ったら食品セットをプレゼントしてくれたことがありました。エントリーのお礼でしょうか。もれ郎はうれしくなって、選考結果などすっかり忘れてしまったほどです。

おわりに:きのこの培養は奥深そうだけど、まあなんとかなります


今回の培養実験によって、予想外にもきのこ培養の奥深さを垣間見てしまいました。


でも、我々の最終目的は家庭できのこを栽培すること。培養培地の実験をしまくって菌糸培養を最適化するすことではありません。


もし、原菌の培養条件が最終的なきのこの発生量に影響をおよぼすのであれば、原菌の培養培地をはじめ環境や培養日数等も検討しなければなりません。しかし、私はまだきのこ栽培においてそこまでのレベルに至っていないですし、たぶんその可能性は無いのではないかと推測しています。


今後何らかの発見があればまた発信していきますが、まずは「かごめ」を使ってじゃんじゃん菌糸を培養していきたいと思います。



もれ郎