さかなきのこ

元きのこ研究者による、きのこ栽培の魅力発信ブログ

きのこ栽培用の寒天培地の作り方。菌糸を培養して種菌作りの準備をしよう!

どうも、元きのこ研究者のもれ郎です。


今日は、きのこの菌糸を培養するときにもれ郎が普段使う、寒天培地の作り方をご紹介したいと思います。
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きのこはおがくずや穀物の粒でも栽培できますが、菌糸として培養するには寒天培地が適しています


寒天培地は、いくつかの材料を溶かした液体を寒天で固めたものです。きのこの培養用であれば、家庭にあるものだけで簡単につくれます


では、どういうときに菌糸として培養していたほうが良いのかというと、これが家庭ではなかなか限定的なシチュエーションしか思いつきません。


思いつくものを挙げてみます。

  • きのこを交配するとき
  • 菌糸を観察したいとき
  • 純粋培養したいとき


一番家庭向きに需要がありそうなのは、「純粋培養したいとき」でしょうか。


純粋培養というのは、目的とする菌糸だけを取り出して培養することを指します。


たとえば、きのこの組織や胞子をつかって分離して、種菌を作る前段階として純粋なきのこの菌糸がほしいときなどですね。


こういうときには、寒天培地を使ったほうが確実です。なぜなら、バクテリアや雑菌を見た目で確認しやすいからです。


「きのこだと思って育てていたら、ただのカビだった……」これは悲しいことです(しかも稀によくある)。


貴重なきのこを手に入れたりして確実に分離に成功したい時は、寒天培地をおすすめします。


それでは、作り方を早速みていきましょう。


関連記事:【家庭できのこ栽培】超お手軽な寒天培地の作り方【菌糸生長用】 - さかなきのこ

寒天培地の基本の作り方


寒天培地は、材料を溶かして固めるだけで完成します。


しかし、ただ溶かして固めるだけだとすぐに雑菌などが生えてくるので、どこかのタイミングで殺菌する必要があります。


次に流れをご紹介します。

1.材料を水に溶かす


寒天培地, 作り方, 材料


材料を水に溶かします。寒天は粉状でも棒状でも構いません。でも、粉のほうが断然使いやすいです。


また、寒天以外の材料は完全に水に溶ける必要はありません。濁っていたり沈殿があっても大丈夫です。


寒天は頑張って完全に溶かします。寒天は約80℃で溶け、約40℃に下がると固まります。熱湯に材料を入れたり、電子レンジで加熱しましょう。


寒天の量は、どんな培地でも1-2%くらいになります。

2.フタつき容器に小分けする


寒天培地, 作り方, 分注


フタつきの容器に小分けします。かっこよく言うと分注(ぶんちゅう)します。寒天が固まる前に素早く行いましょう。万が一固まっても、また加熱して溶かしても問題ありません。


斜面培地用に分注しているときは、培地の量は容器の高さの1/3以下で十分です。あまり入れすぎると、斜面がつくれなくなります。

3.殺菌する


圧力鍋で高温高圧殺菌します。


このとき、容器のフタは緩めておきましょう。容器から培地が漏れないよう、容器は上向きに置いてくださいね。

4.培地を冷やす


斜面培地, 作り方


殺菌が終わった培地を冷やします。完全に冷めるまで圧力鍋の中で放置しても構いません。


斜面培地にする場合は、寒天が固まる前のあちあちの状態で取り出してから、容器を斜めに置いて冷やします


斜めにする角度はそれぞれです。特に決まりはないので、やりやすいようにしてください。もれ郎は斜面を長くしたいので、角度は浅めのことが多いです。


あと注意として、この時に容器のフタを締め直し忘れないようにしましょう。培地をこぼしてやけどをしたり悲しくなります。

5.完成!


寒天培地, 斜面培地, 作り方, 完成


冷やした培地は再度溶かして注ぎ直したり、角度を変えることができますので、こうやって小分けのストックを作っておくと便利です。


家ではあまりやらないと思いますが、シャーレを使いたいときも小分け培地を溶かして注げばすぐ作れます。


そして、消費期限はあまり意識したことがないですが、2-3か月くらいで使いきる感じでしょうか。水分が蒸発している様子であれば、それより前に捨てることもあります。


この寒天培地に菌糸を生長させたものは、種菌をつくるための大元である「原菌」として使用することができます。種菌の作り方は、きのこの種菌の作り方を解説!(材料、方法、注意もあるよ) - さかなきのこに紹介しています。

組成の紹介

コストゼロ!米のとぎ汁培地(KTA培地)


寒天培地, 材料, とぎ汁

  • 米のとぎ汁 1L
  • 寒天 20g

米の研とぎ汁は、「x合の米にy合分の水を入れて、t秒といだもの」などと決めておくといいでしょう。毎回やりかたが違うと、うまくいったりいかなかったりがブレてしまいます。


このようなブレにくさを「再現性」といいます。


再現性のない(=毎回結果がブレブレな)実験は、「たまたまでしょ」と言われてしまい、信用されません。


純粋培養用の培地に再現性は必要ないですが、それでも安定して培養、栽培ができるよう、「そんや考え方があるんだ」という程度で覚えておいてください。また、どれだけ安定させようとしても相手は生き物なので、つねに同じというわけにはいかないものだ、とも思っておいてください。


なお、再現性の高い培地を作ろうとすると、次に紹介する培地のように市販の材料を組み合わせて作るほうが良いです。

再現性重視!砂糖エビオス培地

  • 砂糖 10g
  • エビオス錠 20錠(5gくらい)
  • 寒天 20g
  • 水 1L

家庭で手に入る、研究室で使いそうなものを材料にした培地です。


エビオス錠を常備しているご家庭であれば、ある程度の手頃さと再現性を兼ね備えています。

夢のマツタケ栽培?浜田培地

浜田培地, マツタケ, ニセマツタケ
これは、採取品のニセマツタケ……

  • グルコース(ブドウ糖) 20g
  • エビオス錠5g
  • 寒天 20g
  • 水 1L

これは、マツタケの培養などに使われる培地です。結構栄養豊富な培地という印象で、濃い菌糸がびっちり生えます。


余談ですが、マツタケは菌糸を伸ばす分には簡単です。生長が遅かったり、なぜかきのこになってくれないところに、マツタケ人工栽培の難しさがあります。

発想は自由!オリジナル培地をつくろう!



上にご紹介したのはあくまで一例です。改良したりして、もっと良い培地もつくれることでしょう。


培地の濃さを変えたり、pH(酸性・アルカリ性)の変化を和らげてくれそうな材料を入れたり、変わった材料を試したり。培地づくりの発想は無限大です。


この世には、野菜ジュースとか醤油、植物の煮汁とかが入った培地もあります。家庭にはクエン酸や重曹があるので、ある程度ならpHもいじれますね。


そう。どんな培地を作るかはあなたの発想次第。家にあるもの、スーパーで手に入るものを使って、いくらでも新たな培地を創作ができるでしょう。


みなさんも、目的に合わせて、常識にとらわれないオリジナル培地を作ってみてください。


「こんな培地作ったよ!」というお便りもお待ちしています。


★研究で使う培地の参考:培地について | バイオテクノロジー | 製品評価技術基盤機構(外部リンク)
培地について | バイオテクノロジー | 製品評価技術基盤機構



もれ郎

(2021/3/12追記:コメントを受け本記事の改題等してみました。ご指摘ありがとうございました!)