さかなきのこ

元きのこ研究者による、きのこ栽培の魅力発信ブログ

【きのこ栽培企画】きのこづくりの夏休み④石づきから作ったエノキタケ種菌のこと(8/7〜8/21)

きのこづくりの夏休み④石づきから作ったエノキタケ種菌のこと(8/7〜8/21)

人生とは素晴らしく興味の多いところです。
色々な事が起こるものですが大抵は予想しなかったことです。
(アレクサンダー・グラハム・ベルの言葉)
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どうも、元きのこ研究者のもれ郎です。


今回は二週間分をまとめてご報告します。もれ郎が(狭義の)夏休み中だったので、(企画趣旨上の)夏休みの様子を観察できなかったからです。


この二週間では、希望と絶望を味わうことになりました。そしてなんと、本企画は斜め上の方面で成功を収めることになるのです。


誰もが予想しなかったであろう結末をとくとご覧ください……。

石づき種菌による菌床づくり


夏休みもあと4週間弱という時期。エノキタケ栽培は接種から収穫まで一ヶ月以上はかかるとされています。もれ郎は欲を出し、そして焦り始めました。


「ヒラタケがなんとか栽培できたとして、エノキタケも今仕込まないともう間に合わないかもしれない。」


さらに焦りを加速する要因がありました。もれ郎、8/9~8/14に帰省し家を空けるというイベントがあったのです。すっかり忘れていました。


「もう今やらないと絶対間に合わない!!」


ここでもれ郎は、まだ培養が不十分かもしれない種菌を使って栽培を開始してしまいます。


気がついたら菌糸がもさもさ


さて、一週間後。狭義の夏休みから帰ってきて石づきエノキタケ菌床を観察します。


リビングの温度計を見ると前日の最高気温は31.8℃。「あーこれは望み薄」と思っていると、予想外にも菌糸がもさもさ生えていました。



対照的に、これまで順調だと思っていたヒラタケの様子は今一つです。これは一体……?



「あれ、エノキタケって実は結構丈夫なきのこなのか?」もれ郎は予想外の事態に困惑しつつも思わぬ発見に喜びます。


しかも翌日、さらに喜ばしいことが起こるのです。

なんか生えてきた……!



なんと、前日は姿かたちもなかったきのこが生えてきているではありませんか!白く、ひょろひょろと細長い。これはエノキタケっぽいぞ!


前日の写真を改めて見直すと、側面に白っぽいつぶつぶが写っています。これがきのこの芽(原基)だったのですね。


その後も、たった一日でぐんぐん生えてくる白いきのこ。



このあたりでもれ郎も怪しみ始めます。いくら気温が高いからといって、生長が早すぎる。


しかも、栽培エノキタケの芽と比べてみると、どうやらちょっと見た目が異なるようです。


栽培エノキタケの芽
(出典:JA長野県『 いつものエノキタケが違って見えますように』(外部リンク)


翌日、ついにこいつの正体が判明します。

その正体は……?



やはりエノキタケではありませんでした。


きちんと顕微鏡観察していないので適当にいいますが、ザラエノヒトヨタケか何かだと思います。培地に胞子がついていて、そこから生長して成熟し、生えたのではないかと思われます。

成功?失敗?


というわけで、エノキタケを生やすことはできませんでした。失敗でしょうか。


ちょっと待ってください。もう一度、この企画を始めた時に決めたルールを見直してみましょう。




なんということでしょう。本企画には食用きのこを栽培するという限定をつけていませんでした。当然、こんなことが起きるとは思っておらず、全く想定外の自体だったからなんですけど。


でも、確かに8/31までにきのこを拝むことはできました。



そして、これら4つのルールにも抵触していません。


つまり、企画的には成功というなんともスッキリしない結論が導き出されます。


まあ、私が勝手に決めて勝手に判断していることなのでどうでもいいのですけれども。なんだか、試合に勝って勝負に負けたといった感じです。

考察:なぜ別のきのこが生えてきたのか


うじうじ言っていてもしょうがないので、今回なぜエノキタケではないきのこが生えてきたのかを考えてみたいと思います。


先ほど書いたように、今回生えたきのこは培地から来たのだと思います。


ところで、もれ郎は種菌とヤシガラ培土で無菌操作をせずにきのこを栽培したことがあります。その時との違いを挙げてみることで、失敗した理由を検討してみたいと思います。

  • きのこの種類:ウスヒラタケ vs エノキタケ
  • 種菌:購入 vs 自作
  • 培地の処理:レンジでチン vs 無処理
  • 油かす:使ってない vs 使った
  • 段ボール:使ってない vs 使った


話がややこしくなるので、今回の石づき種菌を作っていた際に最初に生えてきた菌糸がエノキタケのものなのだと仮定した上で話を進めます。


まず、きのこの種類です。ウスヒラタケは確かに強いきのこです。菌糸の生長が早く、雑菌を飲み込んでしまうこともあります。対してエノキタケが弱いのかというと、そこまでの知見はないですが、石づき種菌自体はうまくできている(仮定)ので、そこまで弱くはないかなと思えます。可能性としては△です。


次に、種菌。これはありえます。まだか細い菌糸しか生えていなかったですからね。最近、別の実験により種菌の培養齢がこの栽培方法の成否を左右していると思われる結果が得られています。可能性〇です。


そして、培地の処理です。今回あの謎きのこが生えた直接的な原因がここにあります。ウスヒラタケで栽培したときは、乾燥状態のヤシガラ培土を電子レンジでチンして殺菌していました。この処理で謎きのこの胞子は死んでいるはずです。可能性◎です。


さらに、油かすの利用。そもそも油かすを殺菌していないので、油かすが謎きのこの生長を助長したかという観点です。これは可能性〇だと思います。


最後に、種菌につかった段ボールです。もれ郎は段ボールで種菌づくりを試みたことがこれまで何度かあり、失敗したことも成功したこともありましたが、そこからあのきのこが生えてくることはありませんでした。可能性✕かなと思います。


つまり、培地の処理が一番怪しいと睨んでいます。これまで"無殺菌栽培"と称していた栽培方法において、なんとなくやっていた電子レンジ処理が実は殺菌としてきちんと機能していたという可能性が示唆されました。これは呼び方を考えないといけませんね。

おわりに:あとは消化試合です


夏休みも残り後少しです。とりあえず企画的には成功したので、残りは消化試合的になにかおもしろいことが起きれば報告し、最後にクロージングをするという流れで考えています。


もう少し、お付き合いください。

もれ郎