さかなきのこ

元きのこ研究者による、きのこ栽培の魅力発信ブログ

【文献調査】コーヒーかすできのこ栽培している実例を調べてみた。

どうも、元きのこ研究者のもれ郎です。

 

今回は、ちょっと調べ物をしてみたよ、という回です。コーヒーかすできのこ栽培できるかどうか、調べてみました。

 

追記_実際にやってもみました:コーヒーかすできのこ栽培!身近にあるものを使って家庭で栽培する方法をご紹介! - さかなきのこ

 

追記_シイタケもできました:

【シイタケ栽培】栽培キットを使わず家庭にあるものだけでシイタケを栽培した【ぜんぶ自作】 - さかなきのこ



なんでそんなことしようと思ったのか。というのも、先日、ありがたいことにもれ郎のきのこ栽培についてTwitterでご意見をいただきました。


 

その内容がこちらになります。

 

 

 

 

コーヒーかす単体で栽培。もれ郎はやったことがないので、今後実際にやってみるつもりです(2022/1/21追記:当時のこと)。

 

せっかく面白いご意見をいただいたので、いろいろ実験する前にコーヒーかすを用いたきのこ栽培について調べてみました。

 

結論として、コーヒーかす100%でもきのこ栽培は可能ということがわかりました。また、よりうまく栽培するためのコツのような情報も見つけましたので、いくつかご紹介したいとおもいます。

 coffee コーヒー 粉末

 

 

 


コーヒーかすできのこ栽培@論文

 

Google Scholarで適当に調べた論文を1つご紹介します。

 

Use of Various Coffee Industry Residues for the Cultivation of Pleurotus ostreatus in Solid State Fermentation  

 

この論文では、コーヒーかすの他に、コーヒー豆の殻やコーヒーの葉を使って栽培試験を行っているようですが、ここでは割愛します。

 

こちらで紹介されている方法は、栽培培地がコーヒーかす100%ということで、まさに今回知りたかった内容に合致しました。

 

栽培結果は、60日の栽培期間で生物学的効率が最大90.35%とのことです。

 

 


(寄り道)生物学的効率とは?

さて、聞きなれない言葉が出てきました。生物学的効率(Biological efficiency)とはなんでしょう。

 

これは、きのこの栽培効率の良さを表す数字で、次の式で表されます。

 

 

このとき、分子、つまりきのこの収穫重量は乾燥重量ではないことに注意します。

例えば、培地100gからきのこが50g収穫できたとして、その培地の含水率が60%だとします。

このとき、生物学的効率は125%となります。

 

biological efficiency , 生物学的効率


 

生物学的効率は平気で100%を超えるので、値自体が意味するものは正直よくわかりませんが、異なる条件で栽培した結果どうしを比較するのには多少意味があるでしょう。


 

生物学的効率が90.35%というと、もれ郎が先日仕込んだ210gの培地から75gくらいのきのこが採れる計算になります。

 

これは、もれ郎の感覚的にはかなりうまくいっている数字です。このレベルで栽培ができたら、あなたはもうプロ生産者です。たぶん。

 

ただし、この例だと種菌を培地の10%(たぶん重さ)も接種するようです。これは経済的とは言えない気がします。

 

コーヒーかすできのこ栽培@特許

 

特許文献は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で以下の検索式を入力して出てきたものをいくつかご紹介します。

 

検索式:[A01G24/00/FI+A01G18/00/FI]*[コーヒー/AB]*[ヒラタケ/TX+ひらたけ/TX+Pleurotus/TX]

 

①特開2004-033005

【出願人】ユーシーシー上島珈琲株式会社
【発明の名称】キノコ栽培用培地の製造方法、キノコ栽培用培地、及びキノコ生産方法

この特許は、コーヒーかすの処理方法と、それを用いたきのこの栽培培地の製造方法について権利主張しています。

 

コーヒーかすに含まれる成分がきのこ栽培の邪魔になるので、それを水に浸して取り除いて培地に使う、という方法のようです。

 

特許文献には、「実際のデータはこうでしたよ」ということを示す『実施例』というものが書いてあります。この文献の実施例では、米ぬかを混ぜて栽培した例が載っていますね。

 

実施例によると、確かに処理によって収量がよくなっています。また、ここから生物学的効率を概算すると、75%くらいになりそうです。

 

②特開2005-204668

【出願人】東洋製罐株式会社
【発明の名称】コーヒー抽出かすを主原料とする培地による食用きのこの栽培方法

 

この特許は、コーヒーかすを高温高圧殺菌ではなく発酵させて培地にすることについて権利主張しています。

 

コーヒーかすに米ぬかなどの栄養源を加えて60℃発前後で数十時間発酵させて、栽培培地とするようです。

 

また、クエン酸を微量(0.05-1%)、培地に添加することについても権利主張されています。本文献によると、理由は不明だが収量が増加した、とのことです。

 

クエン酸はお掃除用のものが売られているので簡単に手に入りますね。これはお得情報でした。

 

ちなみに、記載されている実施例から生物学的効率を概算すると、56%くらいになりそうです。

 

これはコンセプトとしては注目の文献ですが、ご家庭でコーヒーかすを使って発酵、つまりコンポスト化させるのはなかなか大変そうです。

 

東洋製罐株式会社さんは、この時代に他にも数件、きのこ栽培に関する特許を出願されています。この努力は実っていないようですが、コーヒーかすといった食品の「ごみ」を、ビジネスとして有効に活用しようという志に非常に感銘を受けますね。

 

【調査結果】コーヒーかすできのこ栽培は実例あり。企業の実績も。

 

 

この調査をするまで、もれ郎は正直「コーヒーかすはただのかさましの混ぜ物だから、それ主体で栽培してもあまりよい栽培成績にならないのでは」と思っていました。

 

しかし、実際に調べてみると、栽培事例はいくつもでてきました。また、コーヒーの成分が悪さをする一面も知られてはいるようですが、それを乗り越える工夫もなされているようでした。

 

そして、きのこ業界ではない大きな企業が特許出願をしていた、という事実は驚きでした。今回ご紹介した特許はいずれも権利は消滅していますが、多少なりビジネス化を検討したことは間違いないでしょう。つまり、コーヒーかすできのこ栽培することは技術的にかなり現実的なものであると言えます。

 

今回わかったことを少しずつためして、栽培方法の開発に生かしていきたいと思います。

 

もれ郎はまだ、しばらくはきのこが1本でも生えてくれればそれで充分というレベルです。しかし、いずれこういった検討を積み重ねていって、ゆくゆくはどこのご家庭でも再現できる栽培方法というものを作り上げていきたいものです。

 

今回は読みつかれる内容でしたが、ここまでご覧いただきありがとうございました。

 


もれ郎