さかなきのこ

元きのこ研究者による、きのこ栽培の魅力発信ブログ

【きのこ栽培企画】きのこづくりの夏休み②失敗そして再起(8日目~14日目)

【きのこ栽培企画】きのこづくりの夏休み②失敗そして再起(8日目~14日目)

何もしないと失敗もない。失敗がないと次がない。(恩師の言葉)
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どうも、元きのこ研究者のもれ郎です。


先週から開始した企画「きのこづくりの夏休み」。第二週目にしてさっそくピンチが訪れました。


ピンチというか、失敗です。こんな序盤に失敗するとは思いませんでした。でも、早かったおかげで挽回もできそうです。


一体もれ郎は何をやらかしたのでしょうか……。

エノキタケの様子がおかしい(〜8日目)



先日から怪しい匂いを発し始めたエノキタケ。相変わらず臭いです。


最初は嫌気発酵の匂いかと思い、通気孔をつけることで対策しますが、日を追うごとに匂いは強くなっていきます。


もれ郎、X(旧Twitter)では生ごみやう●この匂いと表現しました。でも、本当はすこし違います。もれ郎はもう少しこの匂いを的確に表現することができます。


みなさん、ヤドカリってご存知ですよね。夏に海に遊びにいくとよく見かけますね。たまに、おおきな貝殻に入っているやつだと体が見えないことがあります。


もれ郎、小学生の頃、中身が入ったヤドカリを貝殻と間違えて家に持って帰ってきてしまったことがあります。宝物ボックスに貝殻を入れてから数日、部屋が異様に臭くなってきます。匂いのもとをたどると、そこには宝物ボックスが……。


あの時の匂いに酷似しています。天国から地獄。それはもう地獄のような匂いです。「もれ郎の知っているエノキタケの匂いではない……」もれ郎は失敗を確信します。

解説1:なぜ種菌づくりに失敗したのか


困る男性のイラスト


この失敗の理由は2つ考えられます


①エノキタケがそもそも段ボール種菌の手法に向かない
②段ボールの水分活性が高すぎ、かつ温度が高すぎた。


①についてはネットの記載も乏しく検証が必要です。この方法はヒラタケやサケツバタケ、ムラサキシメジで有効だと言われています。


DIY Mushroom Cardboard Spawn: an Easy Mushroom Cloning Technique - Milkwood



今回は、②かなあと思っています。というのも、あの匂い、完全にバクテリアによる発酵が原因です。


バクテリアはそこらへんにいますが、微生物が利用できる水が多い(≒水分活性が高い)とよく湧きます。食品も乾燥している、もしくは塩分濃度が高いと腐らないですよね。あれと同じです。


段ボール種菌を作る際には、段ボールの水は自然に切った程度だったのでけっこうひたひたでした。わりとそんな程度で大丈夫そうに見えるんですけどね。


ただ、やっぱり高い温度は避けたほうがよいと指摘している人もおります。


Oyster Mushrooms: How to Make Cardboard Spawn | Outside The Hops



食中毒細菌なんかですと、5~45℃、とくに 30~40℃で増殖しやすいという意見もあるようです。


食中毒細菌が増殖できる条件
出典:「役に立つ食中毒の知識」食品安全委員会


もれ郎の家の温度は25℃〜30℃ですので、わりとアウトな温度だったのかもしれません。


ということで、ぼんやりと対策を考えつつも、なんだか面倒くさくなってきたところに風邪までひいたので萎えてしまいます。

ヒラタケ種菌を仕込む(9日目〜)


ちょっと時系列が前後します。


エノキタケがこの世ならざる匂いを発する数日前(6日目)。店のきのこコーナーをうろついていると、ヒラタケを見つけました。



もれ郎、この時はとあるレアきのこを探しにわざわざ普段行かない店に来ていて、「きのこづくりの夏休み」のことは当初頭にありませんでした。でも、お目当てが売っていないとわかったとき、ふとヒラタケが目に止まりました。


「あいつ(エノキタケ)がだめだった時の保険が要るかもしれない……」


第六感でしょう。もれ郎はヒラタケを購入します。実際この日の夜、エノキタケのピンチに直面します。


そして夏休み開始9日目、ついにヒラタケを仕込みます。エノキタケの失敗で考えられた原因を回避できるよう、段ボールはよく水を切ります。しかし、まだこの時は温度が高すぎる可能性に気がついていなかったので、室温(25℃〜30℃)で培養します。


そして仕込んだ翌々日。もれ郎がちょっと観察をさぼった隙に、すでに菌糸が目に見えて生えているではありませんか。



「これならいけるかもしれない」


心の余裕ができたもれ郎は、もう一度エノキタケに向き合うことにします。

エノキタケをもう一度仕込む(13日目〜)


ヒラタケを再度仕込んだときと同様に、エノキタケを仕込みます。きのこは水洗いしない。段ボールはよく水を切る。そして、例の香りがほんのり残る栽培容器に再びセットします。今回は時間の余裕がないので、いきなり室温でGOです。


観察してみると、すぐにきのこ片から菌糸が生えています。まあ、これがエノキタケなのかは不明ですけどね。




さらに、もう1つ遊びを加えます。エノキタの石づき(売っているきのこの根本を指します)って培地がけっこう付着しているのですが、これを拡大培養し種菌をつくることを試します。


石づきから培地を削り取り、段ボールでサンドします。栽培用の容器がなかったので、キッチンのゴミ箱から拝借したかいわれの容器を使っています。家族の了承は得ていますのでご安心ください。


これらはいずれも室温に置いて培養を開始しました。



これでもれ郎の夏休み14日目までが終了します。

解説2:エノキタケ種菌を野菜室で培養したり室温で培養した理由


野菜室の温度ってご存知ですか?冷蔵庫の一番使うスペースよりやや高く、だいたい8℃くらいだそうです。


そして、エノキタケ。英名ではwinter mushroomといいます。雪の中から生えることがあるくらい、低温に強いきのこです。


そんなエノキタケをかなり雑な環境で培養するのですから、低温でも生長できるエノキタケに有利な環境で失敗しにくいと思い、野菜室での培養を思いつきます。


あと、夏に「室温で培養」と言っても、冷房の有無とか住んでいる地域とかの要因で温度が家庭によりまちまちです。本企画「きのこづくりの夏休み」はもれ郎が勝手に楽しんでいるものですが、成功したらやっぱり誰かにも広めたいので、再現性に欠ける「室温」というのが嫌だという理由もありました。そんなこんなで、どの家庭でもだいたい8℃くらいの野菜室でやればいいじゃんと思い、当初はこだわっていました。でも、そんなことも言っていられない時期になってしまったのでリスクをとって室温にします。


そう、もれ郎はこの時たしかにそう思っていました。この判断が今後の成否を分けることになるとも知らずに……。

おわりに:まだまだどうなるかわからない


ヒラタケは順調、エノキタケも再出発して一見順調そうな走り出しをみせています。


でも、これから先まだ何が起こるかわかりません。実際、この企画を開始してから想定していないことがたくさん起こりました。


突如ヤドカリの死骸臭を発し始めたエノキタケ。そこに天使のような救いの手を差し伸べてきたヒラタケ。


今きのこの菌糸だと思っているのは、実は全部雑菌の菌糸体かもしれません。あるいは、仮に種菌がうまく作れたとしても、菌床はうまく作れるのか、そしてきのこは生えるのか、難関がまだまだたくさんあります。


でも、こういう成り行き感がとても楽しいです。


来週のもれ郎の夏休みも見逃せませんよ!



もれ郎